紫微鑾駕コレクション:古民家にこめられた祈りを読む

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沖縄古民家といえば赤瓦屋根やシーサーなどが特徴にあげられますが、実はその他にも、普段なかなか目にする機会のない屋根裏に、紫微鑾駕(しびらんか)という護符が隠されているのです。

皆さん、はじめまして。ゲストライターのチネンと申します。
今回、縁あって記事を書かせていただくことになりました。しかもマニアックにも古民家の記事でよいとのこと。ならば、とドキドキしながら今回のかなりニッチな記事を出してみたら、快諾のお返事が!太っ腹(?)なDEEokinawaさんに感謝です。
というわけで、少々ディープな記事にお付き合いください。今回は沖縄の古民家についての記事です。

築後おおむね50年を経た木造瓦屋根住宅を古民家と表現しますが、沖縄の古民家といえば皆さんすぐに赤瓦の上からシーサーが見おろしてくる光景を思い浮かべるかもしれません。

しかし、沖縄の古民家の楽しみ方は、赤瓦やシーサーだけではありません。今回は、普段は目にする機会のない屋根裏に隠された護符・紫微鑾駕(しびらんか)を集めてみました。

沖縄では、家をつくるときの建築儀礼に「棟上げ(ンニアギ)」という儀式があります。本土では「上棟式」と表現したりもするようですが、文字通り棟を上げる=小屋組のてっぺんに用いられる部材をのせる、つまり家の骨組みが完成した際に執り行われる儀礼です。沖縄では、その棟上げにおいて「紫微鑾駕」と書かれた板を棟木に打ち付ける(あるいは棟木に直接墨書きする)風習があります。


(この部分が棟木と呼ばれるもの)

古民家の屋根裏。小屋組のもっとも高い部分に用いられる部材である棟木(矢印で示した部材)に紫微鑾駕は打ち付けられています。
ちなみにこのお宅はセメント瓦葺きなので、垂木の上に直接セメント瓦をのせてあることが分かりますね。

実はこの紫微鑾駕、地域や施工した大工の棟梁によって違いがあり、なかなか面白いのです。というわけで、今回はこの紫微鑾駕を紹介していきたいと思います。なお、屋根裏の写真ばかりなので、写真が地味かつ薄暗いのはご容赦ください。

 

紫微鑾駕(しびらんか)って何?

そもそも「紫微鑾駕」って何よ?と思ったかもしれませんが、紫微鑾駕とは中国由来の概念で、紫微は万物を支配する神様(天の紫微宮というところにいるとされる)、鑾駕はその神様が乗る御輿のこと。つまり、天の神様が御輿に乗ってこの家にやってきて、家をまもり繁栄させてほしいという願いがこめられた言葉なのです。家をまもる護符と表現するとわかりやすいかもしれません。

地域によっては「天官賜福 紫微鑾駕(てんかんしふく しびらんか)」と書くことも。天官賜福は人々に幸福を授ける神様(あるいは天の神様が福を授けてくれるという意味)のことで、神様の名前をふたつも重ねて書いてあります。それだけ家の繁栄を願う気持ちが大きいのでしょう。

それでは紫微鑾駕について見ていきましょう。

 

4文字のシンプルタイプ

まずは、個人的な感想になりますが、比較的よく見るタイプの紫微鑾駕から。紫微鑾駕の4文字を書いた板を打ち付けてあるタイプです。

「紫微鑾駕」の4字だけのシンプルな紫微鑾駕です。

こちらも同じくシンプルタイプ。
棟木に直接打ち付けられているのではなく、ぶら下がるように取り付けられています。


(1957年7月17日吉日と下に書かれている)

棟上げの日付が書かれた紫微鑾駕も多いです。この場合は1957年なので築56年の古民家ということになりますね。


(左に一九五六年六月八日 棟上式の文字)

この紫微鑾駕は、文字が右から左へ書かれています。1956年棟上げということは、築57年の古民家です。

 

8文字の棟木直書きタイプ

続いては、棟木に直接書かれたパターン。棟木に直接書かれる場合は、「天官賜福 紫微鑾駕」の8文字が多い気がします。

取り外された棟木ですが「天官賜福 紫微鑾駕」の8文字が見えます。

 

天官賜福 紫微鑾駕と書かれています
こちらは側面

こちらも「天官賜福 紫微鑾駕」の8文字の紫微鑾駕。
側面に棟上げの日付が記されています。昭和32(1957)年ということは築56年になります。日付の下には、棟梁の名前もありました。


こちらも8文字の紫微鑾駕。

なお、このお宅は赤瓦葺きのようで、垂木の上に細い竹が敷き詰められているのが見えますね。これは野地竹といい、この竹の上に土をのせ、さらにその上に赤瓦を葺いていくのです。

 

これも紫微鑾駕? 変わり種

「天官賜福 紫微鑾駕」以外の文字が書かれている場合もあります。

「霜柱氷軒」と書かれています
「雨棟上露」と書かれています

すぐ上の紫微鑾駕と同じお宅の屋根裏の柱で、それぞれ「霜柱氷軒」(左)、「雨棟上露」(右)の文字が見えます。

『沖縄県国頭郡志』には、

家造の際、柱梁桁等の組立をなして上棟式を挙ぐ、板の表に『紫微鑾駕』の四字を認め、其の裏に『霜柱氷軒雪桁雨棟上露之葺草』の十二字若しくは『福如東海広』の五字を横書きにして棟木に吊し、酒肴を供へて深更に式を行なふ

と書かれており、「霜柱氷軒雪桁雨棟上露之葺草」の12文字の一部だと思われます。

文字通り「霜の柱、氷の軒、雪の桁、雨の棟、露の葺き草」の意味で、おそらく霜や雨、氷といった「水」に関係するものと、家の部材とを組み合わせて、火事にならないようにという祈りをこめたものなのでしょう。霜の柱に、氷の軒…なんともロマンチックな響きですね!(※この「霜柱~」は、どうやら沖縄に限らず全国的にみられる文言のようです。どなたか詳しくご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてください!)

こちらは、先ほど引用した『沖縄県国頭郡志』に登場した「霜柱氷軒雪桁雨棟上露之葺草」の12文字と「福如東海広」の5文字がフルで書かれています。

「福如東海広」の意味は分かりませんが、「東海(仙人が住むという蓬莱山のある方角)のように福がありますように」という意味でしょうか。こちらもご存じの方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてくださいませ!

 

紫微鑾駕を生で見てみたい!という方は

ここまで紫微鑾駕を紹介してきましたが、屋根裏にあるものなので、普段はなかなか目にする機会はないでしょう。けれど、どうしても実際に見てみたい!という方には、恩納村にある琉球村がおすすめです。

琉球村には、8棟の古民家が移築されており、入園してしまえば自由に見学することができます。そのなかに1棟、棟木に「天官賜福 紫微鑾駕」と書かれているのが見える古民家があるので、気になった方は探してみてはいかがでしょうか!

 

まとめ

昔から、家は生活の場であり、そこに住む家族を象徴するものでありました。そのため家を建てるときには、建物そのものが火事にならないようにと縁起を担いだり、その家に住む家族に福があり繁栄しますようにという祈りをこめたりしました。神様に捧げ物をしたり、古謡を歌ったり、紫微鑾駕というまじない言葉を書きつけたり…。古い家屋でも、よく見ると人々の生活への思いがこめられていることに気づきます。

紫微鑾駕に限らず、建築儀礼の際に歌われた古謡等には、昔の人々の家に対する思いや考え方が詰まっていて面白いです。興味のある方は「家造りの古謡その1 ~木の精は怖い?~」も覗いてみてください!

以上、マニアックにも古民家の屋根裏にある紫微鑾駕にスポットをあててみました。

この他にも、こんな紫微鑾駕みたことあるよ!家にまつわるこんな風習があったよ!という情報がありましたら教えてください。

 

ゲストライター

チネン
沖縄生まれ、沖縄育ち。とある大学病院の教授に「ザ・沖縄人という感じの頭がい骨をしている!」と言われました。
古民家に目覚めたのは割と最近。

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