ムーチーの由来譚はどのように子供に伝えられているのか

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ムーチーの由来譚は割と大人向けだが、どのように子供たちに伝えられてきたのだろうか。ムーチーを取り扱った書籍を集めて調べてみた。

さて、ムーチーも終わり1ヶ月が経とうとしておりますが、本日はムーチーネタです。なぜならば本日出るはずだった記事が諸般の事情により公開ができなそうなのであります。

そういうときは何となく記事にしなかった過去ネタから記事を絞り出しているのですが、今回はうっかりムーチーの時期に記事として出せなかったネタを出そうと思います。

ムーチーにおける下の口問題とは

ムーチー(鬼餅)は旧暦12月8日に行われる行事で、健康と長寿を祈願して月桃に包んだ「カーサムーチー」を食べるのが習わしとされています。

その由来についてはムーチー由来の場所に行ってみるでも詳しく触れましたが、かいつまんで解説すると人食い鬼になった兄を妹が知恵を絞って鉄入りのムーチーで退治するという話です。特筆すべきは最後の下りで血の滲んだ「下の口」を見せて「下の口は鬼を食べる口」と鬼を驚かせてとどめを刺す(崖から転落)という部分です。沖縄の行事でヨーカビーという行事では「ホーハイ、ホーハイ(下の口の意味)」と大声で言いながら集落を練り歩くみたいなものもあり、「下の口」には何か悪いモノを追い払う意味があるのだと思われます。

さて。ムーチーはスーパーなどで購入したり、自宅で作ったりもされている訳ですが、保育園や幼稚園でもムーチーの日前後に作られているようです。息子の保育園でもムーチーを作ってきてたのですが、由来として鬼退治であるということは知っていても、当然「下の口」のくだりは知りませんでした。

そう。ムーチーにおける「下の口問題」とは「ムーチーは割と子供も作るけど下の口の下りは説明しにくい」という割とセンシティブな問題です。

ムーチーの由来譚はこれまで子供たちにどのように伝えられてきたのでしょうか。沖縄の昔ばなし、伝説などの本を調べてみました。

 

沖縄の昔ばなし、伝説を扱った書籍からムーチーの話を探す

というわけで、まずはムーチーについての話が収められている書籍を図書館で探します。


県立図書館。現在は泉崎の那覇バスターミナルに移転

沖縄の昔ばなし、伝説をまとめた書籍は沢山あるのですが、基本的に子供でも読める内容(漢字にルビが振ってある、絵本的な挿絵)のものをピックアップして調査していて、市史などは除外しています。

以下、鬼餅の収録と死因の一覧をご覧下さい。


クリックで大きくなります。

図書館で確認できた最も古い沖縄の子供向けの民話集、伊波南哲著の「沖縄の民話」にはばっちりムーチーの話が掲載されています。次に確認できた1964年の喜納 緑村著の「琉球昔噺集」でも「大里鬼」というタイトルで鬼餅話は収録されているのですが、調べられる範囲だと割とムーチーの話は掲載されていません。結構メジャーな話だと思うのですが「おきなわの民話百選」にすら収録されていないのはなんとなく意図を感じます。やっぱり下の口をうまいこと解説できなかったのではないでしょうか。

しかしながら下の話が掲載されていないわけではなく、1979年に発刊された『沖縄のむかし話』には宮古島の「フーニャをだいじにしたふたりの子ども」という話が出てきて鬼が子供にご飯をねだるのですが、「もっとくれなければ金玉に包んで天に昇るぞ」と一話の中に5回も「金玉」という単語がでてきます。金玉はオッケーなのか。

また、1983年に発行の『沖縄民話かるた』には妻が鬼になって夫が逃げるという男版ムーチーっぽい話が収録されています(最終的には鬼になった妻は二匹の虎に食べられるというオチ)。

一方で1988年にムーチーの下の口問題を鮮やかに解決した書籍が発刊されます。

鎌田佐多子さんの絵本「おにムーチー」です。

ここでは下の口は出てこずに、鬼は石や瓦入りのムーチーを食べて悶絶、そのすきに妹に体当たりで崖から落とされて退治されます。

あとがきには

「ムーチー」は、たいへん親しまれている行事であるため、県内の保育園や幼稚園でも旧暦12月8日には、餅づくりが行われるようになってきました。(中略)しかし、「おにムーチー」の原話が元来大人向けのものであるため、子ども達に語り聞かせる際にはアレンジが必要となり、語り手もかなり苦労してきました。そこで、本書では原話を幼児向けにつくりかえ絵本にすることで、より気軽に保育園や幼稚園でも扱えるようにしました。

と書かれており、現在保育園などでのムーチーの解説はこれを元にしてるのだと思われます(息子も絵本を見たことがあると言っていた)。

では子供向けの本では以降この話の流れが採用されたかといえばそういう訳でもなく、最近の本でも下の口が出てくるものあれば、体当たり的な決まり手で鬼を倒すものが混在しているようです。

 

ムーチーの下の口をどう伝えるのか

というわけでムーチーが子供たちにどう伝えられてきたのかを書籍から調べてみました。まとめてみると

・ムーチーの話はそんなに載ってない
・下の口が出てくる話と出てこない話が現在も混在している
・出てこない場合はだいたい鉄餅などでひるませた後の体当たりが決まり手

という感じでしょうか。ちなみに1983年にエッセイストの古波蔵保好という人が書いた「料理沖縄物語」という本ではムーチーの由来譚には下の口が出てくるバージョンと鉄の餅で鬼を退治する2つの話があり、子供の頃に聞かされたのは鉄の餅で鬼を退治する話だったと書かれています。

最近はかちかち山でタヌキが改心したり(しかもおばあさんは死なない)、さるかに合戦で猿が改心してみんな仲良くみたいな昔ばなしが割とマイルドになったりしてるみたいなのですが、ムーチーの由来譚はいつまでも尖っていて欲しいと思う今日この頃です。

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