小禄南公民館を知っていますか?

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那覇市の外れに巨大遺跡のような公民館が隠れています。そこは三人の若い設計者と彼らを支えた那覇市役所と那覇市教育委員会の情熱と挑戦の結晶だったのです。

記事の最後に小禄南公民館を造られた建築士東浜さんの娘さんにあたる方からお礼のメールをいただきましたので追記しています(2022.09.30)。

皆さんは小禄南公民館をご存知でしょうか?

小禄南=那覇市高良の住宅地の中にある小さな公民館ですが、他にはない不思議な魅力に溢れています。

今回その全容と建築に至るまでの熱い経緯について紹介すべく、設計者の東浜義明氏のお話しを交えながら報告いたします。

 

私と小禄南公民館の出会い

私が最初に小禄南公民館を訪れたのは今から20年くらい前でした。藤子不二雄の「まんが道」が読みたくなり図書館で検索すると小禄南公民館にありました。尋ねていくと、住宅地の中にどんどん入り込んでいくのに一向に建物が見えません。正面玄関に続く道の入り口にたどり着くと、やっと奥に建物が見えました。

しかし正面玄関=建物をくぐって「広場」に入って驚きました。

そこはまるでマヤの遺跡テオティワカン⁈かと思うような、独特かつ不思議な空間でした。中に入るまで予想がつきませんでした。

広場を囲むかたちで、階段状の建物構造があり緑化された屋根には芝生が生えています。このメインフロアである1階には、ステージのある集会ホールをはじめ複数の会議室と和室が配置され、2階には小禄南図書館があります。屋内は中庭やガラス張りで採光に溢れとても開放的です。1981年(昭和56年)の建築としては斬新すぎる設計です。

見方によってはプログレロックのレコードジャケットみたいじゃないですか?

こんな凄い建物は、誰によってどんな経緯で作られていったのでしょうか?調べてみました。

設計者の方にお話をうかがう

公民館に尋ねてみると、設計者はなんと公民館の入り口の角に事務所兼自宅を構えておられました。めちゃくちゃ近い!さっそくてくてく歩いて事務所の建物の裏庭を覗いてみると、ランニング姿の初老男性が庭仕事に励んでおられました。

「もしかしたらこの方が設計者?」

道端から恐る恐る声かけてみました。すると、

「そうですよ」

とのお返事が!

まさかこんなかたちで設計者と遭遇するとは…慌てながらも取材の説明をさせていただくと「どうぞ」と快諾をいただき、縁側から上がらせていただき、自宅を兼ねた事務所に案内されました。
(この御自宅がまた魅力的!いろいろ説明をいただきまして、これも紹介したい案件です。タイムス住宅新聞をご参考ください。風と緑を感じて|(有)東浜建築事務所|タイムス住宅新聞社ウェブマガジンhttps://sumai.okinawatimes.co.jp/commons/look/detail/2742

こちらが公民館を設計された東浜義明(ありはまよしあき)さんです。
現役の建築士の方です。当時の設計図や手紙、新聞切り抜きなどの資料を出して詳しくお話しを伺いました。

まず、その設計コンセプトは「昔ながらの沖縄の住宅」とのことでした。即ち母屋を中心に家畜小屋と納屋が庭を囲むイメージで設計されたそうです。それに加えて80年代まだまだ珍しかった「屋上緑化」が導入されています。

当時の新聞記事より引用します。

中庭を囲んで芝生を植えた屋根が階段式に広がっている。芝生の屋根の傾斜が小高い丘を思わせ、遠景からの風景は小高い森のように映る。「小高い緑に包まれた丘をイメージした。建物を三段にしてその間に木を植え、コンクリートの地肌を隠す計画だったが、敷地が当初の計画より大幅に削られたうえ、予算もなくて」と東浜さん。
(中略)
全体構成と構造は「母屋と畜舎と納屋」という沖縄の古い建築の形態から生まれている。玄関を持たない構造を生かし、中庭まで降りている階段が雨端(あまはじ)柱、つまり大きな開口部の軒が内と外を繋ぐ半外部空間になる。そして中庭に生える一本のガジュマルの木が緑の下の語らいの場を想像させてくれている。

なるほど斬新に見えて、実は伝統的沖縄住宅や集落が元になってきたんですね。それにしても、どういう経緯で建築に至ったのでしょう?東浜さんの出自から伺いました。

東浜さんはもともと与那国島のご出身。かつては台風のたびにゆいまーる精神で島民どうし助け合って藁葺き家を修理再建していたことから自然に建築に興味を持ちはじめ、中学卒業後那覇の沖縄工業高校建築科に進学されました。卒業後は那覇市の設計事務所に就職。若干25歳でこの小禄南公民館新築のコンペに参加、これを勝ち取り建築に至ったとのことでした。

このとき東浜さんは建築事務所に所属しながら高校同期の建築士仲間3人と共に立ち上げた設計同人「グループ24(東浜義明、伊盛勝、平安基務)」で応募。毎晩仕事を終えてからアパートの部屋に集まっては自分たちのコンペ作品に取り組んで出品。なんと、所属先の建築事務所「3位」を抑えての堂々「1位」でコンペを勝ち取ってしまいました。つまり、所属先の設計事務所と対抗する形でコンペに参加・勝利したのです!


真ん中が東浜さん

―― 設計事務所からはコンペで競合することは理解されていたのでしょうか?

(東浜さん) 事務所には許可を得てね。昼は会社のコンペをやって、夜は小さな部屋を三人で借りて自分たちのコンペをやってましたよ(笑)

なんと、職場の事務所も認めた上でのコンペ参加だったんです!若手の育成に前向きで大らかな時代だったんですね。

東浜さんは2019/11/8の琉球新報の住宅雑誌「週刊かふう」の記事で当時をこう振り返っています。

ラジオの深夜放送をBGMにインスタントラーメンをすすりながら、ワイワイ討論して作業していた。締め切りに向けて、疲れきった体の一部の神経だけが研ぎ澄まされていく感覚があった。

まさに熱き青春の1ページですね!

(東浜さん) 当時は那覇市役所にも、若手も参加させチャンスを与えよう、力のある人は信用しようという姿勢があってね。経験のない若者の斬新なアイデアを採用してくれました。いい建築を作りたいそういう意気込みのあるひとが役所にはいっぱいいましたからね。私たちみたいな若い建築士にも任せてくれました。なにしろ当時私には二級(建築士免許)しかありませんでした。今では考えられないことです。

…なるほど。時代が産んだ奇跡の建築とも言えるようです。資格や実績よりも「勢い」が優先されていた昭和の熱気を感じますね。現在は「これほど大胆な作品はなかなか採用されにくい」とのことです

このコンペが当時どれだけのインパクトがあったのか。それを示すエピソードとして、選考委員であった建築家で東京大学名誉教授である原広司氏(現在の京都駅や梅田ツインビルを設計)の記事が当時の建築雑誌「建築文化」1983年3月号/彰国社刊 に記載されています。

「(コンペ後に年齢を知って)あまりに若かったのでその後の成り行きが気がかりであった 無事完成し、実際に訪れてみてホッとしたしたというのが最初の感想である」

「通常の地区施設の水準に比べる時、はるかにその水準を上回っており(中略)設計者たちはこの実績をふまえて、今後この幸運を裏切ることなく、将来において展開していってもらいたいと思う。最後にこのプロジェクトを企画し、全過程を進めてこられた那覇市の建築関係の方々、教育委員会の諸氏の意欲的な活動を惜しまれなかった努力に対して、心からの敬意を表しておきたい」

選んだ相手が若過ぎて、名誉教授少し困惑されています(笑) しかし設計者や発注者へのリスペクトが溢れています!

また完成した建物を見た一般の人から「ぜひ私の家の設計をお願いします」という依頼が直接手紙で届いたりと、当時の反響はかなりのものだったようで「復帰後の沖縄建築の代表」として評価されているようです。

東浜さんはその後一級建築士の資格を取得されたのちに、現在の「東浜建築事務所」を立ち上げられました。その後は那覇市繁多川公民館や故郷与那国島の久部良小学校と中学校や、某医療ドラマの診療所の建築など、現在も県内のさまざまな建築を手がけておられます。

小禄南公民館いかがでしたか?興味のある方は是非いらしてくださいね。ちなみに近日全面塗装の予定があるとのことで、今の雰囲気が観られるのは今のうちみたいですよ。

 

追記(2022.09.30):

小禄南公民館を造られた建築士東浜さんの娘さんにあたる方から記事の件でお礼のメールをいただきました。許可を得て紹介いたします。

こんにちは。(中略)

先日は、小禄南公民館についての記事を寄稿してくださりありがとうございました。

公開された記事を読んだという方からお電話をいただき、

「小さいころに利用していました。懐かしい気持ちとともに訪れたときの感動を思い出した」とのうれしい声を寄せてくれました。

知人だけでなく、知らない方からの反響も大きく事務所の社員、家族一同大変喜んでいます。

また、私が個人的にDEE OKINAWAさんのサイトが好きでよく拝見していたので、DEE OKINAWAさんの記事になると聞いたときはとても嬉しかったです!

友人らに自慢しています(笑)

記事の内容も素晴らしく、小禄南公民館のすてきな写真とともに父の青春の思い出を丁寧にまとめていただき大変感謝しております。

お仕事の合間をぬって記事を執筆されているとのことで、お忙しいかと思いますが他の記事も楽しみにしております。

この度は本当にありがとうございました。

ゲストライター

カルマだん吉
長崎出身。かつて沖縄県内で営業していた19軒の銭湯に入浴したことが自慢の内科医師。

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