モービル天ぷらを再現してみる

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終戦後沖縄ではモービル油で揚げた天ぷら「モービル天ぷら」を食べていた時期があったという。今回はそれを再現してみた。

終戦直後沖縄で食べられていたという「モービル天ぷら」

皆さんは「モービル天ぷら」というものを知っているでしょうか?


『庶民がつづる 沖縄戦後生活史』 1998年 沖縄タイムス社

「モービル天ぷら」は終戦直後、物資がなかった沖縄で食用の油の代わりに機械用減摩油(エンジンオイル)を使って揚げられた天ぷらのことです。モービル天ぷらについては色々な市町村誌にも記載があって戦後の沖縄では広く食べられていたようです。

モービル油を使って作られた天ぷらは「においはきつく、黄褐色の泡、黒煙(『庶民がつづる 沖縄戦後生活史』 1998年 沖縄タイムス社)」とそれは凄まじいものだったようですが「モービル(またはモビール)油を使ってのてんぷらは、最高のごちそうであった(同前)」と書かれています。

そんなモービル天ぷらですが当然、身体にはよいはずはなく「よく下痢をして、トイレへの「直行便」ともなった(同前)」ということで本にはモービル天ぷらで命を落とした人の話なども載っています。

モービル天ぷらは食糧事情の改善とともに姿を消したのですが、文献ではよく見るこの天ぷら、いったいどんな感じだったのでしょうか。というわけで本日はモービル天ぷらを再現してみたいと思います。

 

本日の協力者のご紹介

というわけでやってきたのは豊見城市にある沖縄ツーリスト。

本日の協力者のご紹介です。この方は赤瓦ちょーびんさん。
赤瓦ちょーびんさんはラジオ沖縄で地域の歴史散歩などの番組を持つパーソナリティー。


今日は赤瓦は家に置いてきたそうです。

沖縄観光コンベンションビューローのコーディネーターを務めた後、フリーガイドを経て、現在は沖縄ツーリストで色々なツアーの企画やガイドをやっているのだそう。


せっかくなのでトレードマークの赤瓦をつけた姿も。

今回は8月と9月にアメリカ統治下時代の沖縄を体験するツアーを行うのだそうで、それに伴ってモービル天ぷらを再現してみようということになったのだそうです。

 

それではモービル天ぷらを作ってみよう

では早速モービル天ぷらの再現を行ってみたいと思います。

色々な文献に書かれているモービル天ぷらは「黒煙・悪臭」と書かれているため広い場所で試してみます。

赤瓦ちょーびんさんはこの日のために色々な人からモービル天ぷらについて聞き取りを行ったそうですが、実際にやってみるのは初めてだそうです。

モービル油(エンジンオイル)も用意。赤瓦ちょーびんの聞き取りによれば当時は「モービルの27番」という油が最も天ぷらに適していたのだそうですが、これは普通のエンジンオイルです。

ちなみにエンジンオイルには石油から精製された鉱物系とひまし油などを使った植物系、それらを混ぜ合わせたものがあるらしいですが、当時の「モービルの27番」というものがどれに該当するのかは分かりませんでした。僕が手に持ってる奴は混合系らしいです。植物の方が身体にいい気がしますが、ひまし油は下剤として使われてるそうで、下痢は免れないようです。

エンジンオイルを注いで
匂いを嗅いでみる

いよいよエンジンオイルを注いで加熱していきます。匂いを嗅いでみたのですが香りを一番端的に表した表現は「船のにおい」です。

加熱するにつれて船のにおいが強くなってきました。しかし、文献に載っている「黒煙」は出てきません。エンジンオイルの性能が向上したのか、そもそも成分が違うのか。当時はガスではなく薪だったので、火力の問題もあるかもしれません。

水で溶いたのみの小麦粉(赤瓦ちょーびんさんの聞き取りでは卵は入れなかったらしい)と具は人参。ちなみに当時の天ぷらは祝いの際に使われるカラハランブー(白アンダギー)が多かったようです。

エンジンオイルは沸点が高いのか全然熱せられた感じがなかったのですが、それでも衣を入れると浮かび上がってくるくらいにはなりました。

衣をつけた人参を投入。すごく泡が出てきました。大丈夫でしょうか…。

いつの間にか集まってくる人たち。

聞き取りによれば最初の1回は油の匂い取りのために食べなかったそう。上がった天ぷらも船の匂いです。


ネットを駆使してエンジンオイルについて検索

とりあえず無事天ぷらも揚げることができ、あとは試食を待つだけなのですが一点だけ不安なことが。


Wikipedia 「モービル天ぷら」より

このエンジンオイルが石油由来の鉱物油だとなんかダイレクトに生命に関わる気がしてなりません。大丈夫なのか。

そんな心配をよそに油の匂い取りを終えた2回目の天ぷらが揚がりました。

匂いは…
やっぱり船の匂いだ

そんなに匂いは変わりませんでした。

 

モービル天ぷらを食べてみる

こうして出来上がったモービル天ぷら。匂いは船の匂いではありますが、見た目は普通の天ぷらです。

ここまで来たら食べてみない訳にはいかないのですが、一番健康に被害がなさそうな症状で下痢、最悪死にそうなので飲み込まずに咀嚼だけに留めておきます。

では、いざ。

………。

さて、モービル天ぷらですが食感は割と普通の天ぷらの食感です。油の沸点が高かったのかあんまり揚がっている感じには見えなかったのですが、思いの外サクサクと揚がっています。

同時に口の中に広がる、エンジンオイルの香り。若干衣に苦みがある気がします。確かにエンジンオイルは臭いのですが、多分我慢すれば普通に食べられる天ぷらです。

ただ、当時使われていたモービル油は、「オイルは真っ黒なので「クラシミアンダ」とも呼ばれた(名護市市史・本編9 民俗Ⅱ 自然の文化史 2001年 名護市史編さん委員会)」と書かれているので、もっと臭くてもっとドロドロしていたんじゃないかと思われます。さらには「これを使うとカラッと揚がらず、ムチャムチャした食感が口に残り(同前)」とも書かれているので、当時モービル油と呼ばれているものが一体どういうものだったのか、そのあたりはもう少し資料集めや聞き取りが必要なのかもしれません。

貴重な体験はできましたが、本気で健康を害する恐れもありますので皆様真似をしないようにお願いします。

というわけでモービル天ぷらを再現してみる、という本日の特集はいかがだったでしょうか。

冒頭でもちらりとご紹介しましたが、この企画は赤瓦ちょーびんさんのアメリカ統治時代を振り返るツアーの一環としての実験でした。ツアーでは懐かしの730バスにゆられてアメリカ統治時代の様々な面影を残す場所を巡るツアーで、2015年8月9日(南部編)、9月12日(中部編)と開催される予定だそうですよ。

この実験を元に(食べられないけど)モービル天ぷらもツアー内でやるらしいので興味のある方は是非ともご参加下さいまし。

赤瓦ちょーびんと行く!懐かしのバス「730車」にゆられて 南部編
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