沖縄の年末は豚の血で豚汁をつくる

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沖縄ではかつて年末に豚の血を使った豚汁をつくっていたらしい。気になったので再現してみた。

沖縄の大晦日は豚殺しから

さて、新年も明けてしばらく経ってしまったのですがお正月の話をさせてください。

お正月といえば餅ですが沖縄では正月に餅を食べるという風習がなく、年末に豚を殺してその豚肉を料理して食べるという「豚正月」だったと言われています。


しかし今は割と餅も売られている。これはヒヌカン用。

なんでも年末の浜辺は豚の悲鳴であふれかえっていたのだそうです(豚の屠殺は浜辺で行われていたらしい)。

そんな豚食文化の沖縄なのですが、先日文献を調べていて気になるものを見つけました。豚を屠殺した時につくる「ウシームン」という豚汁の話です。そこにはこのように書かれています。

正月の二、三日前に豚を屠ると、先ずクビジリ-(首肉)から切り取り、豚の血、大根を大切りにしたもの、デークニガンサー(大鍋に芋を煮るときに、その上に大根についた葉をすべて置き蒸し煮にして柔らかくしたもの)を切って入れる豚汁料理である。

新鮮な豚肉と血と野菜を入れたウシームンは、一年中で一番マチカンティーした大御馳走であった。イマジシの皮脂の厚い首の肉は意外に油っこくなく、血と繊維質の大根葉の組み合わせは先人たちが考えた庶民の一級料理である。

(中略)

ソーグヮチウヮー(正月豚)を経験した世代の方々はお分かりいただけると思うが、あの豚汁料理が消えてしまったのはこのうえなく残念なことである。

『沖縄の豚と山羊―生活の中から―』 1989 島袋正敏 ひるぎ社

豚の首肉、豚の血、大根とその葉を使って作る汁物についてなのですが、文章の端々からその美味しさ、なくなってしまったことの残念さが伝わります。

なるほど、じゃあ作ってみようではありませんか。ウシームン。

豚の血を探して

というわけで、材料探しからスタートします。材料は豚の首肉、豚の血、大根ですが、大根はまぁスーパーで手に入りますし、首肉も肉屋に行けばなんとかなりそうです。問題となるのは豚の血です。


金武のチーイリチャーを食べ比べてみる

沖縄ではもともと豚の血を使ったチーイリチャーなどの料理があり、豚の血も精肉店などで普通に販売されていました。しかし2017年5月くらいから名護にある名護市食肉センターが法律で定められた食肉処理を行っていないとして県の行政指導を受けたことから暗雲が立ちこめます。豚の血が出荷できなくなってしまったのです。

その後、八重山の食肉センターから血を取り寄せたりしてピンチを脱したという話もありますが、手には入りにくそうな状態が続いているとの話を聞きました。とりあえず豚の血を探してみます。

まずは沖縄市にある中部農連市場。


大晦日の中部農連市場

かつてここでは豚の血が売られていたことは確認しています。豚の血がないか聞いてみたところ…

― 豚の血はもうこっちにはおりて来ないね。北部あたりでまわってるんじゃないかな。袋単位でものすごい高値がついてるらしいよ。

とのこと。

続いてやってきたのは那覇市のフレッシュミートがなは。新聞記事では北部食肉センターで豚の血が出荷できなくなった際に、八重山の食肉センターから血を冷凍で取り寄せて販売しているというのがありました。豚の血ください!

― 八重山の食肉センターから取り寄せてたのですがなかなか量が確保できなくて、ここには無いですね。一部業者の間で回ってる状態ですね。…ひょっとしたらですが、冷凍のものが公設市場なんかでは残っているかもしれませんよ。

むむむ。

那覇市公設市場の肉屋に足を運びました。豚の血を…

― 無いよ。

はい。終了。

探し回っても探し回っても豚の血なんてどこにもないのです。Facebookで呼びかけたりもしてみましたが、完全にお蔵入りのパターンです。というわけで今日の記事はここで終わり…

だと思ったのですが、豚の血を見たという有力情報を得ることができました。やってきたのは宜野湾のファーマーズマーケット。

ここの精肉コーナーに

ありました!豚の血です。どういうわけかステーキ肉に混じって冷凍されたものが2つ残っていました。これが出荷停止前の売れ残りなのか、出荷停止後にどこかから取り寄せられたものなのかは不明ですがとりあえず良かった!値段は100gあたり280円。安いのか高いのかはよく分かりませんでした。

あとはクビジリの肉ですが、これは那覇市の栄町市場で購入しました。

かなりでかいカタマリでしたが、値段は300円。これからお金がないときはクビジリで暮らそうかと思います。ここでも念のため豚の血がないか聞いてみたところ…

― 今は厳しくなったからねー。今、豚の血を取るときは一頭ごとに刃物を消毒して、豚も毛ぞりして消毒するのよ。さらに獣医師さんたちの立ち会いも必要になったとか。豚の血なんてタダみたいなものでしょ?でも立ち会いなんかの手間賃がかかって高くなってるみたいよ。昔なんて屠殺するところにバケツを持って血をもらったりしたのにね。

とのことでした。また輸送する時にトラックがめちゃめちゃ汚れるので那覇とかに持ってくる輸送費もかかるのだとか。豚の血料理はだいたい北部の方でよく見るのでそのあたりも影響してるのかもしれません。

ともあれ材料は揃いました。さっそくウシームンを作っていこうと思います。

 

だいたいの想像でウシームンを作る

さて、こちらがウシームンの材料です。文献によれば大根葉が必要なのですが、今ってだいたい大根の葉っぱが切り取られたものしかなくて量が圧倒的に少ない気がするのですが上にちょこっとついてるやつを使おうと思います。

ところで文献には詳しいレシピが載っていません。

どうしたものかなぁと思ったのですが、双葉社より発売されている『肉の王国 沖縄で愉しむ肉グルメ』という本に読谷村喜名にある「池城ストアー」というお店で作られている「ちーじる」の作り方が詳しく取り上げられていました。そちらも参考にしてみます。ちなみに本書はチーイリチャーなどの沖縄の豚の血の危機だったり、豚食文化についても詳しく紹介されててお勧めです。

まずはクビジリ肉を適当な大きさに切ります。これ半分以上が脂身な気がするのですが大丈夫なのでしょうか…。クビジリと聞くとピンとこない人もいるかと思うのですがクビジリは焼肉で言う「豚トロ」です。内地だと豚トロで使われる以外は細かくミンチにして加工品にされるらしいのですが、沖縄では丸々ベーコンにされてかたまりごと販売されていたりもします。

大根とクビジリをとりあえずよく煮込みます。1時間余りじっくり煮込みました。

続いて血を入れる前に味付けしておきます。豚汁=味噌だと思っていたのですが、先出の『肉の王国 沖縄で愉しむ肉グルメ』で紹介されている「池城ストアー」の味付けは醤油とみりん。そこではたと気づいたのですが、「ウシームン」=「お吸い物」。おそらく味噌汁ではないのだろうということで醤油と酒で味を調えました(みりんが事務所になかった)。

お待たせしました。豚の血です。

まずは液体になったやつを鍋に入れていきます。

殺人現場の料理みたいになりました。

どうなってるのか分からないのですが、割と豚の血はゼリーみたいにプルプルしています。

これも鍋に入れました。

最後に大根葉(というよりほぼ茎)を入れてさっと煮込みます。血が入ったことにより明らかに汁がチョコレート色になりました。

完成です!

 

大晦日の豚汁の味は

さて、苦節の豚の血探しを経て、ついに出来上がりました。これがウシームンです。

どんな味か早速食べてみましょう。

うん。普通にうまいです。クビジリが半分くらい脂身だったので心配でしたがそこまで脂っこさは感じません。豚皮もいいアクセントになっています。味はかなり濃厚で豚の味がどっしりと口の中に広がる感じですが、若干の臭みがあるのは血のせいでしょうか。

こちらは血のかたまり。豚の血を食べた事が無い人はレバーの味を想像するかもしれませんが、豚の血は薄い豚肉みたいな味です。

ところで、この味どこかで食べた事あるなぁ…と思っていたのですが大根葉を食べたときにはたと気づきました。「家系ラーメンの汁」です。大根葉は家系ラーメンの青菜に相当する感じで食感の違いを楽しめるのと油っこい汁に飽きを来させない効果があるようです。もっと入れれば良かった。


キッチンが事件に

というわけで、沖縄の年末に食べられるご馳走であるウシームンを再現してみるという記事でした。これが正解なのかは文献からでは判別がつかなかったのですが、月一くらいでは食べたい味に仕上がりました。何より気になっていた料理を再現できてよかったです。

それにつけても沖縄本島における豚の血問題は結構深刻で、豚の血を使った料理は現在もなおかなり厳しい状況に立たされているのではないかと思います。一日も早く豚の血がもっと手に入りやすくなればなぁと思う所存です。

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