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【連載】ハブでも分かる!?遺老説伝 Vol.23
『ハブでも分かる!?遺老説伝』とは
『遺老説伝(いろうせつでん)』は1743年から1745年にかけて琉球王国の正史として編纂された『球陽(きゅうよう)』の外巻で、各地の御嶽や行事の由来、珍しい出来事などを首里政府が各地に命令を出して集めたものとされています。
当連載『ハブでも分かる!?遺老説伝』は、"ハブでも分かる" をコンセプトに、原文(漢文)をそのまま読み解くには難解すぎる『遺老説伝』を、沖縄出身の芸大生・吉元あきこが漫画で描き下してみる、という試みです。ただ、本当にハブでも分かるかどうかはハブのみぞ知るので悪しからず。
*当連載の内容はすべて史実というわけではなく、フィクションが大いに含まれていますのでご了承ください。
睡虫次良(にいぶいむしじらあ)
「主人よ、急いで庭に出て天のおさとしを聞けツ」
金持夫婦は、夢、現(ううツ)の中で、ビツクリして、何かしらとあやしみながら、あわてふためき、庭にでてきました。
「自分は人間ではない、天帝のご命令をうけてお前の家の庭に天降(あまくだり)した神様である。
お前たちに、おさとしを告(つげ)ている。お前たちに男の子が生れず、女の子が一人生れたのは運命であるから何も嘆(なげ)いたり、怨(うらん)だりすることはない。
それより今年十六になつた一人娘のために、早く婚約者(いいなづけ)をきめて大きな喜びをさずかるようにせよ。
それには娘を隣(となり)の次良と夫婦にして家を嗣(つ)がせ、その上次良の両親を、お前の方でひきとつて一生を養(やしな)つて安楽に暮らさせるがよい。
次良は世間から馬鹿だといわれていたけれども、彼は心が素直(すなお)で、利口で潔白だから、将来はきつと大いに栄(さか)える。
疑(うたが)つてはいけない。もしこのおさとしに背いてグズグズしていたらお前たちは天のお咎(とが)めをうけるのだ。」
「娘は性質が温順で、容貌(かたち)も美しうございます。
方々からもらい手が沢山ございますが、撰(えら)びに、撰んでまだ決定しておりません。
只今のお諭(さと)しをこうむつて、誠(まこと)にありがたくお受けし、露(つゆ)程も疑うことはございません。」
「私は天へ帰つてその言葉を申しあげよう。」
といいながら白鷺をはなつたので空高くまい上つた。
それを仰(あお)いだ金持ち夫婦は、いよいよおどろきかしこみ、白鷺の飛んだ空を見おくつて、やうやく家にはいつて寝(やす)みました。
次良は自分の計画がうまくいつたので、内心よろこび、コツソリ樹からおりて自分の家にかえつて寝ました。
「娘の乙鶴も、はや十六歳になりました。しかしまだ、誰方様とも許婚(いいなづけ)をしてありません。
と次良の老父母に頭をさげて頼みました。
老父母は腰を抜かさんばかりにおどろき
「倅(せがれ)の次良は怠け者で、昼も夜も寝ているばかり、・・・何一つ仕事をするでなしに、その上世間の笑い者になつていることは、あなた方もよく御存じでございましよう。
私たちは次良をどう始末しようかと心配しています。それに私たちまでお邸で養つていただくなんて、御冗談はしないで下さい、おことわりいたします。」
と聞きいれそうもない老父母に、
「いや、なんであなた方お年寄りをだましましよう。実は昨夜、天のお使いが私たちの家に御下りになつて・・・・・・」
と髪のおさとしをくわしく話したので、やつと老父母も納得(なつとく)し、次良と乙鶴は許婚(いいなづけ)ときまりました。
「次良は、これまで怠け者、眠虫(ねむりむし)で仕事もしたことがなく、それでもあんな幸福(こうふく)を授(さず)かるのは、きつと次良の祖先がよい行いをした天のお助けがむくいられたのであろう。」
とうわさしあつて、祝福されたとのことである。
『琉球民話集 全巻 球陽外巻遺老説伝口語訳』 P11 - P14より 琉球史料研究会編(1963年)
<バックナンバー>
プロローグ『クバとハナ』/第1回『那覇という地名の由来』
第2回『田芋のふるさと』
第3回『天久宮の伝説・前編』
第4回『天久宮の伝説・中編』
第5回『天久宮の伝説・後編』
第6回『辺戸の星窪』
第7回『羽地祝女』
第8回『邑(ムラ)を作った兄弟・前編』
第9回『邑(ムラ)を作った兄弟・後編』
第10回『神々の遊び』
第11回『貫玉』
第12回『普天間宮の伝説-1』
第13回『普天間宮の伝説-2』
第14回『普天間宮の伝説-3』
第15回『普天間宮の伝説-4』
第16回『普天間宮の伝説-5』
第17回『西表島の祖納堂』
第18回『水の恨み・前編』
第19回『水の恨み・後編』
第20回『御水マラソン』
第21回『おもろそうし』
第22回『睡虫次良・前編』
第23回『睡虫次良・後編』
第24回『時双紙』
第25回『城殿』
第26回『夫人の仇討ち-1』
第27回『夫人の仇討ち-2』
第28回『夫人の仇討ち-3』
第29回『夫人の仇討ち-4・完』
第30回『進貢船』
第31回『樽良知(たらーち)と大里鬼(うふざとうに)-1』
第32回『樽良知(たらーち)と大里鬼(うふざとうに)-2』
第33回『樽良知(たらーち)と大里鬼(うふざとうに)-3』
第34回『恐ろしい報い』
第35回『宝剣 千代金丸-1』
第36回『宝剣 千代金丸-2』
第37回『宝剣 千代金丸-3』
第38回『宝剣 千代金丸-4』
第39回『宝剣 千代金丸-5』
第40回『宝剣 大昔の世』
第41回『津波を防ぐ方法-1』
第42回『津波を防ぐ方法-2』
第43回『津波を防ぐ方法-3』
第44回『世誇宮』
第45回『平和の神-1』
第46回『平和の神-2』
第47回『淵の幽霊船-1』
第48回『淵の幽霊船-2』
第49回『神文の水』
第50回『安里神社-1』
第51回『安里神社-2』
第52回『安里神社-3』
第53回『亜佳渡前』
第54回『寺織名-1』
第55回『寺織名-2』
第56回『寺織名-3』
第57回『平松』
第58回『鄭大夫岩-1』
第59回『鄭大夫岩-2』
第60回『女傑諸樽-1』
第61回『女傑諸樽-2』
第62回『博打屋』
第63回『黄金の瓜子-1』
第64回『黄金の瓜子-2』
第65回『黄金の瓜子-3』
第66回『黄金の瓜子-4』
第67回『黄金の瓜子-5』
第68回『黄金の瓜子-6』
第69回『黄金の瓜子-7』
第70回『黄金の瓜子-8』
第71回『若狭町の地蔵堂』
第72回『化け物に負けた男-1』
ゲストライター
- 吉元あきこ
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沖縄で生まれ育ち、京都の芸術大学を卒業。地元を愛し、沖縄マンガを描くことを生業としています。Twitterで作品を公開中です。
実はキジムナーに会ったことがあるのが自慢ですが、よく覚えていないことが残念。
好物はジミーのアップルパイ。
ワラビーにて「5年1組 でいご通信」連載中。
twitter:https://twitter.com/8dydpxGguooAzWM
BLOG:ありんくりん書房
Youtubeチャンネル:ウミナイビ城 / Uminaibi Gushiku
フリーイラスト素材:イラストAC