2020.02.20

【連載】ハブでも分かる!?遺老説伝 Vol.22

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1740年代に琉球王国の歴史書として編纂された『球陽』の外巻である『遺老説伝(いろうせつでん)』。首里政府が各地に命を出して集めたとされるその内容を、漫画でゆるく描き下してみるという連載です。

ハブでも分かる!?遺老説伝

『ハブでも分かる!?遺老説伝』とは

『遺老説伝(いろうせつでん)』は1743年から1745年にかけて琉球王国の正史として編纂された『球陽(きゅうよう)』の外巻で、各地の御嶽や行事の由来、珍しい出来事などを首里政府が各地に命令を出して集めたものとされています。

当連載『ハブでも分かる!?遺老説伝』は、"ハブでも分かる" をコンセプトに、原文(漢文)をそのまま読み解くには難解すぎる『遺老説伝』を、沖縄出身の芸大生・吉元あきこが漫画で描き下してみる、という試みです。ただ、本当にハブでも分かるかどうかはハブのみぞ知るので悪しからず。

*当連載の内容はすべて史実というわけではなく、フィクションが大いに含まれていますのでご了承ください。

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睡虫次良(にいぶいむしじらあ)

むかしむかし、首里に一人の奇(めづ)らしい人がいました。
名前は次良(じらあ)、お父さんや、お母さんは、ずいぶん年寄の上に家は大変貧乏で、その日その日の御飯も満足にいただけないほどでしたが、次良は愚(おろか)者で、怠(なまけ)者で、何一つ仕事をしません。
十八歳になっても、親の言付(いいつけ)は全く聞こうともせず、その難儀も知らぬ顔で、昼となく、夜となく眠ってばかりいました。年取ったお母さんが、御飯をたけば次良は眠い目をこすりこすり起きてきて食べます。
食べてしまえば、又ゴロリと寝むる。
こんなふうに食っては眠り、眠っては食い、ただいたずらに月日をおくっています。
世間の人たちからは馬鹿者あつかいにされ、誰いうとなく「睡虫次良」(にいぶいむしじらあ)と呼ばれるようになりました。
老父母は、次良をもてあまし、遠方へ追いやって懲(こら)しめてやろうとも相談しましたが、しかし親子の情ではそれもできず、空しく月日を送るばかりでした。
ある日、突然次良が、父の留守中に母にむかっていいました。
「お母さん私が非常にほしいものがあります。それは白鷺(しらさぎ)です。私のために一羽買って下さったら、私のねがいはもう他(ほか)にございません。」
いぶかしい気に、顔をしかめて聞いていた母は
「お前どうして白鷺がほしいのか、それをいってごらんなさい。」
と、問い返しても、次良はただ黙って思詰(おもいつめ)ているばかりでした。
老母はこの不憫(ふびん)な子どもが可哀想にも思はれたが、
「家は、こんなに貧乏であるのに、どうして白鷺など買ってお前にやることができますか?」
とは、いって見たものの体も弱く、普通の子供のようでないので、考えこんで若死してしまうようなことがあってはいけない、自分たちも年をとっているので、この子が死んだら、生きる望みもなくなってしまう。
ここまで考えた老母は、無理してでも白鷺を買ってやろうと決心しました。
あちら、こちらから工面(くめん)してきたお金で人に頼み、方々歩き廻らせて、やっと白鷺一羽を買ってきたので、それを次良にやりました。
次良は非常に喜んで、白鷺を誰にも見せずにかくしておき、可愛がって飼いました。
ある夜更(よふけ)のことです。
次良は、となりのお金持の家中が寝しづまるのをうかがい、白鷺をふところにいれ、神様か、仙人のような姿に身をかえて、コッソリそこの庭の大榕樹(おおがじまる)によぢのぼり・・・・・・
(後編に続く)

『琉球民話集 全巻 球陽外巻遺老説伝口語訳』 P9 - P11より 琉球史料研究会編(1963年)

<バックナンバー>
プロローグ『クバとハナ』/第1回『那覇という地名の由来』
第2回『田芋のふるさと』
第3回『天久宮の伝説・前編』
第4回『天久宮の伝説・中編』
第5回『天久宮の伝説・後編』
第6回『辺戸の星窪』
第7回『羽地祝女』
第8回『邑(ムラ)を作った兄弟・前編』
第9回『邑(ムラ)を作った兄弟・後編』
第10回『神々の遊び』
第11回『貫玉』
第12回『普天間宮の伝説-1』
第13回『普天間宮の伝説-2』
第14回『普天間宮の伝説-3』
第15回『普天間宮の伝説-4』
第16回『普天間宮の伝説-5』
第17回『西表島の祖納堂』
第18回『水の恨み・前編』
第19回『水の恨み・後編』
第20回『御水マラソン』
第21回『おもろそうし』
第22回『睡虫次良・前編』
第23回『睡虫次良・後編』
第24回『時双紙』
第25回『城殿』
第26回『夫人の仇討ち-1』
第27回『夫人の仇討ち-2』
第28回『夫人の仇討ち-3』
第29回『夫人の仇討ち-4・完』
第30回『進貢船』
第31回『樽良知(たらーち)と大里鬼(うふざとうに)-1』
第32回『樽良知(たらーち)と大里鬼(うふざとうに)-2』
第33回『樽良知(たらーち)と大里鬼(うふざとうに)-3』
第34回『恐ろしい報い』
第35回『宝剣 千代金丸-1』
第36回『宝剣 千代金丸-2』
第37回『宝剣 千代金丸-3』
第38回『宝剣 千代金丸-4』
第39回『宝剣 千代金丸-5』
第40回『宝剣 大昔の世』
第41回『津波を防ぐ方法-1』
第42回『津波を防ぐ方法-2』
第43回『津波を防ぐ方法-3』
第44回『世誇宮』
第45回『平和の神-1』
第46回『平和の神-2』
第47回『淵の幽霊船-1』
第48回『淵の幽霊船-2』
第49回『神文の水』
第50回『安里神社-1』
第51回『安里神社-2』
第52回『安里神社-3』
第53回『亜佳渡前』
第54回『寺織名-1』
第55回『寺織名-2』
第56回『寺織名-3』
第57回『平松』
第58回『鄭大夫岩-1』
第59回『鄭大夫岩-2』
第60回『女傑諸樽-1』
第61回『女傑諸樽-2』
第62回『博打屋』
第63回『黄金の瓜子-1』
第64回『黄金の瓜子-2』
第65回『黄金の瓜子-3』
第65回『黄金の瓜子-4』
第67回『黄金の瓜子-5』

ゲストライター

吉元あきこ
沖縄で生まれ育ち、京都の芸術大学を卒業。地元を愛し、沖縄マンガを描くことを生業としています。Twitterで作品を公開中です。
実はキジムナーに会ったことがあるのが自慢ですが、よく覚えていないことが残念。
好物はジミーのアップルパイ。
ワラビーにて「5年1組 でいご通信」連載中。
twitter:https://twitter.com/8dydpxGguooAzWM
BLOG:ありんくりん書房
Youtubeチャンネル:ウミナイビ城 / Uminaibi Gushiku
フリーイラスト素材:イラストAC

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